—文化の違いと、里帰りできなかった理由—
日本の産後ケアはとても手厚い。
出産直後は周りの人たちに支えてもらい、母体が回復するまでゆっくり休むという文化がある。
私の田舎でも「里帰り出産」は当たり前で、
炊事洗濯は実母に任せ、赤ちゃんのお世話以外はなるべく休む——これが常識だった。
そして私の母は特に、産後ケアに人一倍厳しい。
というのも、母の実母(私の祖母)は産後の肥立ちが悪く、
幼い母と妹たちと、生まれたばかりの赤ちゃんを残して亡くなっている。
その経験から母はよく言っていた。
「産後一か月は水仕事はしてはいけん!」
…と。
ところが夫の国では、産後1日で退院して、そのまま普通に生活に戻るのが一般的だ。
当然、夫は日本の産後の慣習を理解できず、驚いていた。
「なんでそんなに休む必要があるの?」
「医学的根拠は?」
「僕の国ではこんなに早く動くよ」
自分の国の女性たちの例を挙げ、「なんでそんな迷信信じてるの?」とまで言う。
多分、彼女たちの様々な苦労なんか聞いていないだろう。
私は産後に備えて里帰りしたかったが、夫の持論に押されて諦めた。
実家も遠く、頼りにできるのは夫だけだし、信じてみようと。
そんな中、私の母が心配して「そっちに行こうか?」と言い出した。
夫の反応はこうだった。
「僕がいるから家事も赤ちゃんの世話も要りません。
手伝うつもりなら来なくていいです。
でも、“会いに来る”なら大歓迎!」
……うん。
母が来る理由は、あなたに会いに来たいためではない。
それでも母は「とりあえず様子を見に行くわ」と来てくれることになった。
■ 退院の日から始まった心の違和感
私が退院の日、夫が迎えに来て車に乗り込むなりこう言った。
「このままベビー用品見にショッピングモール寄ろう!」
私が困惑して「生まれたばかりの赤ちゃんは外に出さないよ?」と言うと、
「医学的根拠は?
僕の国では生後すぐに教会に連れて行くよ」
と言い、強行突破。
生後1週間の我が子はギャン泣き。
私はフラフラ、全身痛くて足はがくがく。歩くのもやっと。
しかし、夫にとって「私の心配」は馬鹿げてるらしい。
どうしても無理だったので、お願いをして、すぐ家に帰ってもらった。
■ そして母が来た。
ここからが苦行の本番だった。
母が来てくれたのを合図に、夫のスイッチが「いい婿アピール」モードに入った。
私は産褥熱でぐったり寝込むほどだった日。
赤ちゃんはまだ数日しか経っていない。
それなのに夫はその私と子どもを置いて、
母をお祭りやイベント会場へ連れまわした。
また別の日は、足の悪い母を連れて高台にある神社へ。
私を歓迎してくれているのだろうと、
母は笑顔で「ありがとうね」と言いながら連れまわされていた。
夜には、「みんなでディナー行こう!!」
とアメリカンレストランへ連れて行かれた。
……なんで?
産後と新生児、老人にアメリカン?
母の滞在中、夫の意見を肯定するため家事はほとんど私。
夫は赤ちゃんの世話はしてくれたが、常に私が横で待機。
私は、夫の産後に対する意見は正しいと母に証明するために、
家事をいつも通りこなした。
自分も少しだけプライドがあった。
私が選んだ夫は間違ってないんだと。
母は笑顔で「そうだね、そんな考えもあるんだね。」
と、笑顔で受け止めてくれた。

