〜国際結婚家庭が抱える“やりがい搾取”の現実〜
これは、夫がALTだった頃と、
私たちが事業を始めたばかりの頃の話。
外国人が少ない地域では、ALT(外国語指導助手)は、
12月になるとあちこちから“サンタ役お願いします”の依頼が来る。
ほとんどがちょっと知り合い、または仕事関係の方を介して、
全く知らない人達のためのサンタ役を頼まれるわけだ。
保育園、幼稚園、子育て支援センター、地域イベント――
とにかく「外国人=サンタ適任」という発想なのか、
毎年この時期は静かに地獄のように忙しい。
もちろん事前に報酬の話はない。
いただける場合は商品券や5,000円程度、お菓子、または無。
一度だけ、園児100名超の大規模園で10,000円いただいたこともあったが、
基本は ボランティア前提 だ。
「日本の子どもたちが喜んでくれるからいいでしょ?」
そんな空気が前提になっている。
※国際交流員や JET の方については、
自治体の業務としてイベント要請に対応するところもある。
でもそれは“仕事”として構造があるから成立している話であって、
民間の外国人に同じノリで求められても、ただの無償労働となるだけだ。
■ サンタ業は“雰囲気”で頼まれるのに、拘束時間はガッツリ長い
ある大規模園のクリスマス会
クリスマス会の数日前に夫と私が呼ばれ、台本打合せが1時間以上。
本番は朝から園入りして着替えて待機し、
イベントの途中で登場して寸劇→全園児へプレゼントを渡す。
拘束時間はトータル3時間以上。
後にも先にも、この一回だけ、10,000円いただいた。
少人数の園でも、打合せ、着替えから待機、本番まで
合計1〜2時間は潰れる。
しかも打合せの通訳として、
“私もセットで付いてくる前提” で依頼されるのが常。
気づけばサンタだけでなく、サンタ補佐役まで抱え込んでいる。
■ ■ そして極めつけ ― “支援センターのトナカイ事件”
これは、私の中で完全にスイッチが切れた出来事。
すでに事業を始めていた頃、
とても断りにくい仕事関係の方からの依頼だった。
夫がOKしてサンタとして子育て支援センターへ行くことに。
私は子育て中で、仕事場は午前お休みにして従業員に留守番を頼み、先方へこう伝えた。
「夫は日本語が少しできるので、一人で行かせますね。」
しかし返ってきたのは、
「奥さんも一緒に来てください。お子さんはこちらで見ますから。」
嫌な予感しかしなかったが、仕方なく同行した。
到着すると、開口一番こう言われた。
「じゃ、、旦那さんはこれ(サンタ衣装)。奥さんはこれ(トナカイの被り物)ね。」
……は?私、トナカイ?聞いてないし。
打合せの通訳だけじゃなかったの?しかも、職員さんたち笑ってる….
聞いてないし、と抵抗するも、
「英語わからなくて〜助かります〜」の軽いノリで、
役割がどんどん決められていく。
● 台本と打合せは無し
● サンタのセリフは即興
● トナカイの私はサンタの隣で通訳
● プレゼント渡しでトナカイが子どもの名札を見てサンタに名前を伝える
保護者も職員もたくさんいるのに、全部私たちに丸投げ感半端ない
そして最悪だったのは――
■ 我が子がギャン泣きし、サンタとトナカイの「邪魔になるから」と、職員一人と寒い別室に隔離されてたこと。
到着直後に私から強制的に引き離され、
泣きながら連れ去られる我が子。
終了後、ずっと泣きじゃくっていたであろう我が子の顔を見た瞬間、
もう私の中で何かがブッチリ切れた。
「もう二度とサンタ要請は受けないでほしい」
このあとで、心の底から語気強めに夫にそう伝えた。
この日、やむなく午前のレッスンをお休みにしてまで引き受けたボランティア。
帰り際に渡されたのは、子ども達のプレゼントと同じお菓子。
私の中に残ったのは、トナカイを見て笑っていた職員の顔と泣きわめく我が子の顔。
これが“外国人サンタ”とその家族の扱いか、と虚しさだけが残った。
■ ALTは「道化」ではない
日本人がもし海外で暮らしていて、
毎年イベントのたびに
・芸者の格好
・忍者の寸劇
・日本の伝統行事のキャスト役
を“日本人だから”という理由だけで
何度も何度も頼まれまくったら?
仕事があるのに、当たり前のように頼まれたら、
たぶん誰だって嫌になる。
夫は英語講師、または経営者であって、芸人でも役者でもない。
それでも人々は“外国人だから”という理由で
道化の役割を求めてくる。
ずっと違和感だった。
■ やめ時問題
我が子が通う園で、保護者として仕方なく引き受ける事があった。
しかし、我が子が卒園した翌年、
仕事を休んでまで引き受ける理由もなく、
丁寧にお断りしたのだが、園長に
「え?ずっとやってくれると思ってたのに」
と無責任扱いされた。
別の園では、
「じゃあ代わりにサンタやってくれる知り合いはいませんか?」
と、サンタ探しまで頼まれた(このパターンが一番多い)
国際交流団体の職員からは毎年のように電話が来た。
毎年断っていても、電話が来る。
頼まれた瞬間にイラッとする自分が、実はいちばん面倒くさい。
さらに、そのあと断わらなければいけない事実が、想像以上に心を消耗させる。
■ 結論:ALTはイベント要員じゃない。
でも社会はそう見ている。
ALTも外国人住民も、
地域の人にとっては“イベントの味付け”になりがちだ。
地域の施設なんだから、ボランティアで当たり前。
外国人なんだから、外国文化で日本の子ども達を喜ばせるのも当たり前。
と思われていると感じる。(私個人の感想だけどね)
その裏で、
実際の負担を背負うのは家族だ。
サンタを引き受けるかどうかは人それぞれでいい。
でも、「外国人だからできるよね」と当然視するのは、
やめてほしい。
ALTは道化ではないし暇でもない。
外国人は無料のイベントキャストでもない。
それを声を大にして言いたい。
【あとがき】
ここに書いた体験や感じたことは、
15年以上前、まだ外国人がほとんどいなかった地方での出来事をもとにした、あくまで私個人の感想です。
時代も環境もずいぶん変わり、
今は外国人も増え、接し方も良くも悪くも多様になりました。
当時の私は、夫がALTとして“サンタ要請の無限ループ”に
家族ごと巻き込まれる実体験をし、
「外国人だから当然」という空気に違和感を覚えていました。
いま思えば、地域柄・時代柄が作り出した“あるある”だったのかもしれません。
それでも、あのとき感じた戸惑いやモヤモヤは、
たぶん一生忘れないと思う。

